- Artist Voice Vol.7
その時の「ノリ」は一番大切にしています。
「面白い」と思えるかどうか
宇川征二。
「油絵でも面白いことができるんだ」「油絵でもしょうもないものを描いていいんだ」
と言う部分を楽しんでもらえたらなと思います。
12年ほど経営された愛着ある雑貨店を閉じ、作家1ぽんでやってゆこうと決意された宇川さん。
そこに至った心境やそのルーツをお話ししていただきました。

天神橋筋6丁目にある「クルール」さん。宇川さんが雑貨店を営んでいたときから仲良くされていたレトロ雑貨やさん。テレビの小道具として使用されることもある本格レトロ雑貨店です。
宇川征二、作家としてのルーツ
『作品を何かしらのカタチにして販売する』という作家活動の原点
作家になろうと思ったきっかけは?


いろいろあってやめることにしました。
進学予定でしたので就職活動もしていなかったため、もともと興味もあった雑貨屋さんでのアルバイトを始めました。
ある時オーナーさんから「クリエイターの友達がたくさんいるなら仕切り役としてみんなの作品を納品してみないか」というお話をいただきました。
そうして当時の作家仲間たちに声を掛けて作品を集め、そこに自分の絵を加工して製作したポストカードなどのグッズを紛れ込ませ、系列の店舗に並べさせていただくようになりました。
『作品を何かしらのカタチにして販売する』という作家活動の原点はここだと思います。

宇川さんサイト過去WORKより出典
雑貨店では長かったのですか?


ハッと気がついたら店頭でバイト仲間と年越しカウントダウン営業してたり・・・
肉体的には大変でしたけど仲間を含め最高に楽しかったので結局4〜5年は出入りを繰り返していましたね。
その間にクリエイターの横のつながりがさらに広がったことで、もっと多くの作家作品を並べられる場所が欲しいと思うようになり、勢いで自分の店を持ちました。
作家作品と趣味で集めたアンティーク雑貨のみの店で、メーカーものは一切扱っていませんでしたのでオープン当初はスカスカの状態、見切り発車もいいところでしたね。
その店内にギャラリーコーナーを設け 自身も時々個展を開催していました。
それをきっかけに他のお店やギャラリーの方から外でのイベントにお声掛けいただける機会が増えていきました。
そうなるとどうしてもお店をお休みにする事も増え、末期にはお客さんから「いつ行っても閉まってるやん」と言われる有様でしたが。
作家で行くぞと決意したきっかけですか?
開けられないお店のために絵を描いていると言う矛盾に気付いたことですね。
展覧会に参加するため月の半分お店を開けられない、でも当然テナント料は発生している、月末に展覧会の売り上げで家賃を払う・・・ あれ、 何コレ? と。
「絵だけ描いてたらいいやん」っていう。
12年ほど続けた店でかなり愛着もありましたがそうしてスッパリ撤退し今に至ります。

宇川さんが営まれていた雑貨店。
僕自身はタイミングや状況さえ外さなければなんでも面白くなりうると思っています。
制作で大切にしてること コンセプト、モチーフ、伝えたいことは何でしょうか?


あとは発表する時期や場所も一つの要素と考えて「面白い」と思えるかどうか、ですかね。
「この時期ならパンダの赤ちゃん生まれてるやろうなぁ」とか、「この頃ならみんなサンマ食べたいはず」とか、旬な時事ネタや季節感も気にします。
かと思えば、ここは逆に季節を外した方が面白いなと感じたらあっさりそうします。
うん、やはり結局は「ノリ」なんでしょうね。
作品を通して 自分自身を晒すぞ! 信念を訴えかけるぞ! みたいな気持ちはほぼないですね。
狭いなり広いなりにターゲットを定めて「あの人に刺さるかなぁ」「あの絵が好きな方々にウケるかなぁ」と期待されているであろうものを優先します。
僕にはそっちの方が楽ですね、そもそもそんなに引き出しもないので (笑) 。
全てを自分の中から、となると発想や色使いなども一辺倒になってしまいそうです。
予定調和で物事が進んでいると途中で急激に冷めるタチなのでそれは避けたいですね。
そういう意味でも外からいただいたモチーフを不安半分で描き始め、軌道に乗りかけたらプチハプニングを起こして修正、という進め方が性に合っていると思います。

タイトル:別に

タイトル:西羊タンポポ

タイトル:『 本品の原材料には以下のアレルギー物質が含まれています 』
宇川さんは何に「面白い」と感じるのでしょうか?


そうかと思えばしょうもないダジャレの不意打ちが妙にツボる時間帯みたいなものもありますよね。
僕自身はタイミングや状況さえ外さなければなんでも面白くなりうると思っていますので、その都度イケそうと思ったものを面白がってチョイスしているだけですね。
ただ同じテイストのものが続くと飽きられることだけは確かですので
展示の際は「ロジカル系の絵が多いから間に出オチ系を飾ろう」「笑わせようとしすぎてるからもう少ししっとり系を足そう」といったふうにバランスや展示順には気をつけているつもりです。
大学では画材全般ひととおり経験しましたが油絵は群を抜いて簡単だなと感じました。
使用されている画材「油絵具」についてお聞かせください。


大学では画材全般ひととおり経験しましたが油絵は群を抜いて簡単だなと感じました。
水墨画や水彩画の場合、白い面を残すための逆算をしつつ塗り進めるという手順がありますが油絵にはそういった繊細さは不要です。
ここに赤っぽい何か欲しいから描こう、やっぱりダサかった消そう、ここを面白くできるのはこれか、違うな、とずっと下書きのスケッチをしているような感覚です。
そうして塗り重ねているうちに色の深みもいい感じに増してくれますし。
描き方や混色にも「こうやれば木に見える」とか「この色とこの色を使えば間違いない」といった鉄板のメソッドがあるんですよ。それさえ押さえれば本当に “誰でも何でも” です (笑) 。
僕の場合も互いに相性のいい9色のレギュラー絵の具があるのですが、それらさえ使えば簡単にそれっぽく調和の取れた油絵らしい混色ができますよ。
宇川さん愛用の油絵の具
DMに掲載のイラスト「テイルライター」について聞かせてください。


いつかはあれの絵を描きたいなと常々思っていたので。
ただ、箱詰りネコがメインの絵では DM用の作品としてはいかがなものかな とも思い、まとめ役としてオトナのネコに登場していただきました。
そのことで彼女にぼんやりと「庇護者」という意味合いが出てきたので残りはそれと重なるイメージに沿って描き上げました。
尻尾に火が灯っているのも「テイルライター」というタイトルもその後の成り行き、後付けですが、文字通りの「尻尾で着火するもの」の他に「テールライト」や「物語を紡ぐもの」といった意味合いも匂わせる事ができたので結果オーライかなと思い始めています。

Naniwa Bolie 3 用に描き下ろした新作 タイトル:テイルライター
しょうもなければしょうもないほど、わざわざ描くようなものでなければないほど、
「何をガッツリ描いとんねん」って笑えるのが油絵のズルい部分ですから
モチーフに関して教えてください


雑貨屋バイト時代に現在のような動物モチーフの絵を描くようになりました。
ここ最近は 『ミステリアスなもの』 のわかりやすい象徴としてネコを描くことが多いですね。
同じ理由でパンダやバクのような目から表情が読み取りにくい動物が多いです。
観ていただく方にその時々の気分で自由に推測していただきやすい ということもありますが、僕自身もコンセプトやテーマを決めないまま描き始める事が多いので 後々どんな絵にでも持っていけるように、という部分もありますね。
両方の意味であらかじめストライクゾーンを広げておくというか 。
絵の中で怒っていたり泣いていたりという極端な感情表現もまずないです。
お腹が空いているとか起き抜けでぼんやりしているといった状況的な要素でなんとなく察していただけるくらいがちょうどいいです。
こうしてデフォルメした動物をメインのモチーフとしてはいますが、人物や静物、風景画などを古典的な技法で描く練習は今も続けています。
なぜ?
例えば正装のオペラ歌手が全力でアホみたいな歌を歌い上げたらそれだけで面白いでしょう?
それと同じで引くほどの技術を注いで馬鹿みたいな絵を描いたら面白いじゃないですか。
しょうもなければしょうもないほど、わざわざ描くようなものでなければないほど、
「何をガッツリ描いとんねん」って笑えるのが油絵のズルい部分ですからそれを利用しない手はないです (笑) 。

よく描かれる、バク。FBのビジュアルより出典
宇川さんが絵を通じて伝えたいことを教えてください


僕が描きながらココ面白いなと感じたものを同じように面白いと共有していただけたら、って感じでしょうか。
とはいえ少しばかりのテーマなり示唆している事はありますので、作品自体とそのタイトル、あとはポストカードに添えた小さな絵を、「上の句・中の句・下の句」的なヒントにしていろいろと推測を楽しんでいただきたいです。
作品の系統として見た瞬間に「ふふっ」ってなる事を狙ったものもあれば、
逆に理解するのに時間がかかる表現をしているものもあります。
後者の場合、原画をご覧いただいて 何だかモヤモヤしたままギャラリーを出て 帰りの電車とか家でお風呂に入っている時にいろんな要素がピシっとリンクして「あっ」みたいな展開が理想ですね。
影響を受けた尊敬する人、メンター、目指す方などはいらっしゃいますか?


初めて油絵に触れた頃にたまたま書店で見かけた「エドワード・D・ボイトの娘たち」という絵の色使いに衝撃を受けた事が始まりです。
それは何でもない日常の一場面を描いた絵なのですが、白い布の影が緑だったり黄土色だったり、光を受けた耳がとんでもなく真っ赤だったり、、、
油彩・水彩を問わず、他のどの作品も同様に色使いの妙が凄まじく、
「なんでこの描き方でこれは岩、ここは水ってわかるんだ」と思うものばかり。
ひとつひとつトリックを解明するような気持ちで毎日ルーペで観察していました。
その経験は後々に大きく響いています。

ジョン・シンガー・サージェント タイトル:エドワード・D・ボイトの娘たち 出展:ART LOVER
「このへんの脇道についてはアイツに訊け いつもあのへんに居る」みたいな人になれたらそんなのもアリかなという気持ちです。
今後の展開や、ビジョン、夢、2019の予定を教えてください


ただ、画集や絵本のように作品をひとまとめにした何かをちゃんとした形にしたいなーと言う気持ちはずっとあります。
クラウドファンディング?
そうですね・・・積極的にガツガツセルフプロデュースする宇川、というのは多分そんなに求められていないと思うので・・・
何か面白い理由で強制されてやることになった、とかなら楽しそうですね。
暴走したAIに無作為に選ばれて「明日までにクラウドファンディングせよ。さもなくばシドニーは」みたいな事態になったら面白いから泣きながらやります (笑) 。
そこまで自分自身がはっきり見えてないというのもあると思いますが、到達点や目標を設定するとその瞬間にそこへの直線が引かれる気がして萎えるというか、、、。
「まっすぐ最短であの高みへ」というタイプではないので、その時々で面白そうだと思った脇道を選んでいけばその時々が面白くて、そのうちに「このへんの脇道についてはアイツに訊け いつもあのへんに居る」みたいな人になれたらそんなのもアリかなという気持ちです。
個展やイベントなどで行なっている油絵のライブペインティングの機会は増やしていきたいですね。
今後展開してゆきたいことを教えてください。


先ほどもお話しましたが油絵って簡単にそれっぽく見せる詐欺まがいの手口というか、独特の裏技がいっぱいあるんですよ (笑) 。
それを直にご覧いただいて「面白そう!」とか「詐欺やん!」って一緒に楽しんでいただきたいです。
「ここら辺に何か欲しいけど何がいい?」ってリクエストをいただいたり、会話の中からキーワードをピックアップして反映させたり、想定していない方向にどんどん変わっていくのが僕自身もとても楽しいので人前で描くことは全然苦になりませんね。

ukawaseiji_kuru-ru

クルールさんの店内オブジェたち
僕自身としては「いつもの関西じゃない」ことを面白がりながらやりたいですね。
今回、特別参加されるMAISON D'ART Naniwa Bolie3 についておきかせください。


松野さんは定期的に僕の友人とグループ展をされていたこともあり何度か作品を拝見しておりましたので、今回こういう形でご縁をいただけたことはとても嬉しいです。
僕自身としては「いつもの関西じゃない」ことを面白がりながらやりたいですね。
見ていただく方へ


僕の事をご存知の方には「変わらないなぁ またやってんなぁ」と笑っていただければうれしいですね。
お客様それぞれの解釈や印象も気軽にお聞かせいただきたいです。
絵の中にひとつの世界とキャラクターという人格を描いたら僕自身もお客様と同じく絵の外の人「部外者」です。
そんな僕が絵の中の状況や心情を100%理解しているというのは無理がありますよね。
僕もお客様と同じ立場ですので一緒になってこうかな?ああかな?と自由に探る時間を楽しみたいですね。
そっちの方が面白いやん! と思う解釈に出逢えた時はすぐタイトル変えます (笑) 。
さいごに
最初から最後まで「面白い」がキーワードの宇川さん。
独自の二段、三段に設計された面白い、をぜひとも味わってください。
今後の活躍にも乞うご期待ください!
「NANIWA BOLIE 3人展」
全日在廊の予定です。ぜひお越しください。
Profile 宇川征二
香川県生まれ、大阪在住。
1995年、 宝塚造形芸術大学 造形学部 美術学科 絵画コース卒業。
'98年より、主に動物をモチーフに、精緻な描写で、意外性のあるシニカルかつユーモラスな油彩作品を、大阪、神戸を中心に関西で発表。
2001年より大阪南堀江に作家オリジナル作品を扱う「Uz-Uz(pseudonym?)」営業。
2015年閉店し、現在画業に専念。
【宇川征二 officialサイト】
www.uh3465.wixsite.com/s-ukawa
facebook www.facebook.com/s.ukawa.ekaki


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